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2020大晦日・早朝

 早朝に変な電話がかかってきた。

 ぶつぶつとノイズが混じってて、音が途切れていた。電話の向こうの相手は、なんだか聞き覚えのある子どもの声をしていた。

 もしもしを言う暇もなく、そいつが吹っ掛けてきた。

『アンケートにご協力ください』

 いいでしょう、とぼくは心の中で答えた。

 

Q.今年やり残したことは?
A.大掃除。

Q.来年の抱負は?
A.毎日こつこつ家の中を掃除すること、ピーマンと仲良くなること。

Q.来年やり残しそうなことは?
A.ベランダと網戸の掃除。

Q.去年末に考えた今年の抱負は何だった?
A.早く寝ること。人の話を遮らないこと。きゅうりに優しくすること。

Q.それをやり残した今の気持ちは?
A.自分に優しくしてくれない人に優しくする必要性がわからなかった。

Q.キリウ君は実在すると思いますか?

 

「キリウ君って?」

 ようやく口から出てきたぼくの声は、恥ずかしいくらいにガサガサだった。それが面白かったのか、引き笑いのような声を残して電話は切れた。

 寝ぼけ眼で着信履歴を見ても、最後のものは三週間前にかかってきた回線屋のセールスのものだった。

 ふいに思い出したのは、ホームビデオの中で見た幼い弟の声。

『あけましておめでとうございます』

 んなこと言われても、うちは喪中だ。

 喪が明けないのだ。黒のタートルネックばかりアホみたいに買ってしまうのはそのせいかもしれなかった。