第五章
川のせせらぎが耳に気持ちがよい
橋のへりに寄りかかり 口から吐き出した唾に群がる鯉を見ながら
直弼はそう思った
「いらしゃんせ~」
不細工な町娘が気さくに声をかけてきたので 冷やかし目的で見てみることにした
そこは
かんざし屋であった
憎悪の表情をあらわにしながら 直弼は店を立ち去った
「いらしゃんせ~」店の前を通るたびに
ぬらりひょんのような顔をした娘が 声をかけてくる
基本的に直弼は 冷やかし目的以外では 店を見ることはない
下等な日本人の売るものなど 俺のツバにも劣ると豪語していたのを
ある町の商人が聞いたことがある と記録には残っている
ぬらりひょんがあまりにもしつこく呼び止めるので
見たらすぐ 去ってしまおうと 心のなかで娘を罵りながら
商品を見た
そこは
かんざし屋であった
一目 見るやいなや その町娘の顔面にツバを吐きかけた
店主にも かんざしにも 満遍なく吐きかけた
憤怒と憎悪で その顔はまるで悪鬼のようだったと 後に町人は語ったと言う
直弼は吐き捨てるように
「この町はゴミの掃き溜めだ」と声高らかに叫び 町人を罵ったあと
次の町まで歩いていくのだった