第十二章
夜空というものは これ程までに美しきものであったか
液体を口からしたたらせた直弼が
ボソボソと 年老いた物乞いのような声で呟きながら 頭上を見上げた
足元にころがる妖怪の残骸から触手を引きちぎり
我が家へと持ち帰ろうとする その姿は さながらこの地に伝わる伝承 『鵺(ぬえ)』 のようだった
鵺は 体を虎 尾は蛇 頭が猴(ひひ)の化け物である
夜中に鐘がなる頃に 山里へ下り 子供を喰らうとされる凶悪な妖怪であった
直弼は 「抱える方法が無い」と 履き物のうしろに触手を突っ込み
それを地面に垂らしながら さながら尾を引きずる鵺のように 歩いていたのであった
その上直弼の怠惰な性格がここでも露呈してしまっていた
「2足で歩くのが億劫だ」という理由で 背中に大量の触手をくくりつけ さながら四足獣の如く闊歩していた
更に直弼の顔面は 痺れ粉を大量に接種していたため 猴のように不吉な様相に変貌していた
この方法が 二足での歩行より遥かに効率的だったのは 野獣のカンと言う他無い
「そろそろ薬が出来る頃だ」
したりがおで帰路へとつく直弼の その笑みは もはや人のそれではなかった