第十章

奇っ怪な植物が 死人を搾りカスのような外見に変貌させていた

これは「麻たん五」と呼ばれる人食を主とし 養分を補給する植物である

一説によると 今は亡き主君織田信長が 南蛮からとりよせた 観葉植物だという

その美麗さは 目を疑うものがあり 信長が「年に一度咲き乱れ 花はたいへん美しきかな」

と満月の夜に吟じたとされる唄がのこされている

だがしかし 今はもはや死肉をもとめて闇夜をさまよう 妖怪である

 

月光が妖しくかがやく夜 直弼は木の上で息を殺して潜んでいた

目下数mのところには 人の臭いを嗅ぎ付けた麻たん五が 長大なツルを振り回しながら索敵を繰り返している

 

この植物は 聞くところによると

蜜は皮膚をとかし ツルは四肢を分断し 花粉を吸ったら意識を失ってしまうとか

この花粉に目をつけた直弼は 笑みを押し殺しながら その時を待っていた

 

数刻前 蠱毒を仕込み終わった直弼は 京に伝わるとある怪談話を思いだした

京では晩に夜道を歩いていると 視界が突如黄色くそまり そのまま意識を失うことがある

そして目覚めたときには もう麻たん五の胃ぶくろの中にいるのだという

この視界が黄色くそまる というのが妙に気になった直弼は その仮説が頭に浮かんだ瞬間 胸騒ぎをおぼえた

「確認しなければならぬ」と一言呟いた直弼は 身軽な服装に着替え 中心地に向かって走った

 

――その仮説とは 「黄色い花粉は 濃密なしびれぐすりではないのか」 というものだった

獲物を見失った麻たん五が からだから黄色い粉を噴出しはじめたとき

木の上で 直弼の体が激しく震えた