第六章

若い男は 名を坂本といった

幼い頃に親に棄てられたため 名前はないのだという

直弼は どうして 『婆に衣服を売る専門家』になったのか

純粋に 『人斬り専門家』としての 好奇心で聞いた

 

時は十数年前にさかのぼる

故郷は遠く海をへだてた 直弼が聞いたことのないような土地だった

生まれた時に 既に仔犬ほどの重さがあり

実の親には棄てられたものの 

引き取ってくれた親は 坂本にとって本当の親と思っているのだという

親の期待に答え 順調にスクスクと育ち 

恩を返すため 努力し 学舎を成績優秀で卒業し 将来は家業を引き継ぎ 呉服屋になるのだという

 

直弼は その話を聞きながら いびきをかいていた

訛りが激しく 何を言っているのかわからず 大きな声だったので

「つまらないやつだな 起きたら殺そう」 と決め 明日にそなえて寝ることにしたのだった

 

直弼の決意をよそに

坂本は 涙を流しながら 夜通し 喋り続けたのであった