第三章
ペリーが遅めの朝食にと
まぐろと えんがわと たこと しゃこの握りを
口のなかに放り込んでいる頃…
「あんさんは 何者じゃ…」
直弼は口から泡を吹きながら
町人を切り殺していた
足下に頭を転げさせている この男は
直弼に注文を聞きに行っただけの 店の店主である
直弼は 頭から離れたところで
くの字に崩れ落ちていた 胴体のもとに歩みよった
店主の胴体を乱暴にまさぐり 少々の小銭を奪う
こうして 一日一日を過ごすのが 直弼の日課であった
胸元から白い紙につつまれた 白い粉を取りだし
おもむろに舌で舐めとった
この粉は トリカブトというキンポウゲ科の植物の
猛毒をもつ 根 を粉にしたものである
本来なら 忍の者などが暗殺に利用するほどの毒薬である
「この痺れ具合がたまらん」
口からさらに泡を噴出しながら 直弼はにこやかに笑った
直弼が京にたどり着いたのは 路銀が欲しいからでも 寿司を食うためでもない
人身売買が行われている という噂の闇市が開催されるからであった
なにしろ今回の市では 本場オランダから輸入された
カステラ職人が出品されるのだという
その黄金色の菓子を しばらく食べていなかったために
直弼の体は 禁断症状を起こし始めていた
「もはやトリカブトでは 足りぬ」
直弼は体を痙攣させ 白眼をむきながら
カステラ職人を手にいれるために 闇市へと走った