がれきの下には何がある。
そんなことを考える奴は、例外なく暇人だった。世の中にはもっと考えるべき事柄がいくらでもある。今晩の献立を考えていた方がずっと有意義だし、少なくとも糞ポエムでも書いてた方が、まだ世の中のためになる。没頭させておけば余計なことをしないのなら……。
それでもこの世界には、誰も気に留めないようなどうでもいいものが、いくらでも転がっていた。電波塔もその一つであった。意味のないものが多すぎるせいで、今さら意味の分からないものにあえて突っ込む人はいなかった。その中には見ちゃいけないものもあったし、知らない方が幸せなこともたくさんあったから。
コウノトリが赤ん坊を運んでくるわけがあるか。歪んだ保健体育がもたらした少年少女の健全な魂を、札束でブン殴る時が来たんだよ。
がれきの下には何がある。
あえて言葉にするなら、ゼロとイチのように原始的な何かが渦を巻いているのだと、キリウ少年の遠い記憶は知っていた。彼はその昔、がれきの下を見たことがあった。けれど全て忘れてしまった。そして忘れてしまったなりに、彼の神経は、そんなもの見ない方がよかった気がしていた。毛細血管は泣いていた。
そのような世界の有象無象は知らない。
ある晴れた夕方のこと、ひやかしに来たユコが、電波塔の下からキリウを見ていた。街からここまで来るのは、ひやかしにしては絶対に骨であるが、今日は特に想像力がネガティヴな傾向にあったキリウには、ひやかし以外の理由が思い付かなかった。それでも嬉しかったのは、彼の哀れなところであったが、だから彼は電波塔の半分くらいの高さからほとんど飛び降りるようにして、ユコの近くに降り立った。
着地点から弾けたがれきの破片を鞄で叩き落とし、ユコは何の感慨もなく言った。
「電波塔、こんな近くで見たの初めてかも」
とても当たり障りのない言葉だった。
「街中からは見えないからね」
キリウも当たり障りのない返事をした。
暮れゆく日の下で、なお白く輝いて見える電波塔が二人を見下ろしていた。けれど、先端から音もなく発信される何かの気配に形容しがたい威圧感を覚えて、ユコはすぐに目を背けた。その先にあるものも、地平を覆う白いがれきだけだ。街から離れたここには、空と電波塔と白いがれきの地平線以外のものはない。
誰もが見飽きた風景だった。
「昔、弟と一緒にこうやって、電波塔見上げてた気がする」
そう突然つぶやいたのはキリウだ。
「気がするの?」
「いや……」
永遠の少年の記憶領域に、そのような画像がいくつも重複して刻み込まれているのだとしたら、無駄な話だ。とりわけキリウは忘れっぽく、あらゆる記念日やバラライカの弾き方を含むきわどいことはほとんど忘れていたし、親のこともまったく覚えていなかった。彼には故郷もくそもない。感覚的なノスタルジアの底に記憶が無い。
考えていると虚しくなるので、ユコはなんとなく制服のスカートのポッケから飴玉を取り出した。そしてそれをキリウの手に握らせた。