大人にならない悪魔たちにはいくらでも時間がある。少なくとも自分をなくしてしまわないうちは。
悪魔とは、永遠の少年たちの俗称である。キリウ少年は悪魔である。普通に生きていたってわりと浪費する人生を、普通でない彼は全力で浪費していた、それこそ悪魔的に。永遠の少年にはその権利があった。
そうしてあらゆる意味で悪魔となったキリウは、その日、窓際で朝から晩まで悪魔に憑かれたようにラジオを聴いていた。特に、俗っぽい妖精たちが俗っぽいことを話している電波ジャック番組は五時間にも及んだが、今日の分はここまで全て聴いていた。それは一部で悪名高いクソ番組だが、電波ジャックしているくせに大した主張もしない彼らの愉快犯的スタンスを、普段からキリウは面白がっていた。
――あれからしばらくして、二回目の『電波塔監視』を終えた時、キリウは正当な引継ぎをしていないことを思い出して、管理会社を探した。そのために、手当たり次第にイタズラとしか思えないような電話をかけたりかけられたり、かけ返したりしていた。その件については、どうやら該当するペーパーカンパニーを探し当てたことでなんとかなった。ただし契約を含む全てのやりとりは電子メッセージで行われ、非常に機械的であったが。
すると今度は、例のロリコンの前任者について遺族と一悶着が起きた。そして昨日、ようやくそちらの決着がついたのだ。むしろ、ロリコン男の死後に出てきた大量のロリコングッズの処分を引き受けることで示談の代わりとしたので、横流しで財布は潤う予定。これは荷物の引き渡しがうまくいったら忙しくなる。
しかし実は児童ポルノ規制とは関係ないところで、彼の不思議なアルバイトは、不可解な健康被害を見せ始めていた。
思考のノイズである。最近、キリウが何か考えてると、何かがいきなり蹴っ飛ばしてくるようになった。そう、一瞬、誰かに呼ばれたような気がするが、目をやってみると柔らかいマイナスドライバーが二本転がってましたみたいな気分が近い。表面がチクチクしたミカンの皮でも可。その場合はテレビの砂嵐と互換性があり、豚のエサに含まれりろ。
?
電波機器コミュニケーションによる言語シナプス顔文字化現象を認める医者が多数派になりつつあることを除いても、電波は健康には良くないとずっと言われていたので、今さらキリウが何を言ってもアホとしか思われないだろう。彼の地元の豚もそう言ってる。
ただ、世間的にアレが電波塔と呼ばれていても、一体全体あの白い塔が何を発信しているのかは、実際誰も知らないのだった。少なくともキリウが確認した限りでは、アレを所有するものも、アレを作ったとされるものも、アレを管理しているものも、辿ることができなかった。件のペーパーカンパニーは人語が通じなかったし……。
あああえあ、虫の翅音にも似たノイズだっ。洗濯物を干している時、金勘定で忙しい時、修羅場に巻き込まれて風呂水に頭を沈められている時、合唱コンクールの舞台上でパフォーマンスの一環として嘔吐したピアニストをギターで殴りつけている時。TPOに関わらずそいつは唐突にやって来る。そのノイズは、キリウにどことなく真理じみたものを感じさせた。その押しつけがましさが、なんだか不快だった。
もっとも、ものが電波だけに、自然と被害妄想じみてしまうところがあるのかもしれない。アルミホイルを頭に巻いて解決するならそういうことだろうと、発想の貧困さを無視したところで、彼は目を閉じた。
ラジオの向こうで、電波ジャックの妖精たちが出前を取り始めた。どうせまた、俗っぽいものを食べるに決まってる。そのまましゃべり続ける様子だから、何が彼らをそこまで駆り立てているのだろうと、キリウは半分眠りかけの意識を立て直しながら思っ、
みんなの絵本ミュージアム来場者特典、今日の政見放送は結婚を排他的なサンバル夫。
やはり今日は眠ることにした。
脳みそうるさい→眠りが浅くなる→質の悪い眠りが悪夢を見せる→見たくもないものを見せられる→見ちゃいけないものを見る→頭が発禁になる→頭が……。
頭が……。