26.豪華客船進水式、無事に航海が終了し港に停留する間際、錨(いかり)が重すぎて沈没。船長「やっぱり錨を外注にしたのは間違いだったか」いち早く救命ボートで脱出した
桃の体内で、鉄を求め放浪する鍛冶の神、ヘパイストス
「火種は、アマテラスちゃんから貰った」
ヘパイストスは、数十分程前(通常の時間で考えるのであれば)、太陽の神であるアマテラスに面会していた、そして、その少女の姿に戸惑いながらも無事に火を手に入れた
「あとは鉄だ…鉄さえあれば…」
桃式昇降機(エレベーター)は地下4Fに辿り着いた
あの薄壁さえ砕ければ、憂鬱気味に、だが諦めてはいない、きっといるはずだ、鉄を…つかさどるもの(神)が
桃式昇降機のドアが開き、ピンク色の蛍光灯に照らされた怪しい廊下を進む
檻があった、そこには、少年が捉えられていた
両手を鎖(桃が危機を感じ、肉を変質させたもの)で縛り上げられ、まるで罪人のように檻の中にブラ下がる少年が
「おじさん…おじさん…」
少年はか細い声をあげ、ヘパイストスに呼びかけた
「ここから出してくれよう…お願いだよう…」
泣きそうな声だった、少年の手首は、鎖で繋がれているため、すでに一体化していると思い、ヘパイストスは諦めかけた
「俺は…助けに来たんじゃないんだ…残念だけど、俺には…俺は武器を作れるけども、材料がなくてね…この檻は破れないんだ…」
「お願いだよう…待ってくれよう…おじさん…」
少年の前でこうべを垂れる、元来神は、頭を下げることなどしない、だが多神教であるこの、おそらく八百万の神であろう、その国の礼儀に従って、檻を離れようとした
「おじさん…僕の名前はね…」
「おじさん…僕の名前は…」
「アラハバキっていうんだ」
ゾワッ、ヘパイストスは一度は見限り去ろうとした檻を振り返る
「アラハバキ」
少年の言葉を繰り返す、その言葉がとても重要だという事に、心のどこかで気づいた
「その名前、どこかで聞いたことがあるぞ、少年、どうしたんだ、キミがどうしたというんだ!」
よく見ると、桃鎖(クサリ)は、少年の手に直に触れてはいなかった、手錠のように手首につけられた、岩のようなバンドが、侵食を防いでいた
「そうか、キミが…キミが、アラハバキ! 金属の神…鉱石の神!」
「だから言ったろう、待ってくれようってさ…僕は体から鉱石を出せるんだ…本当は、僕も鍛冶の神さ…だけど、こういう有り様じゃなにもできないんだ…だから、おじさん…その、火箸(ひばし、トング)に灯った火をよう…僕に預けてくれよう…」
ヘパイストスは迷った、この檻は破壊できない、しかし、肝心の鉱石を生み出せるという少年は、捕えられている…まだ、ほかに鉱石の神はいるはずだが…
「その、左手に持っているものは、いったいなんだい? その、杖なら、僕を捕らえている桃鎖くらいは、切れるんじゃないかい?」
ヘパイストスの左手に握られていたのは、あの、落ちぶれ、酒に酔い、暴れ狂い、ケルベロスを殺した老害の主神、ゼウスからパクった杖であった
「日本の神は…強いな、どんな時でも立ち上がろうとするのだな」
もう、ヘパイストスに迷いはなかった
狙いをつけ、ゼウスの杖を少年を捉える悪夢の桃鎖に投げ付ける
ジギン、桃鎖に亀裂が入り、少年の左腕がブラリと下がる、そして、少年は杖を拾い上げ、右手の鎖を……
少年はヘパイストスに、歩み寄る
「僕は昔、ドグウってわかるかな、スカルピーといえばわかってくれるかな、大きな姿だったんだ、今はこんな、子供の姿にされて、昔みたいに武器を生み出すことはできないけど…このくらいなら、作れるよ」
アラハバキの手のひらからこぼれ落ちる無数の鉱石、金、銀、銅、そして、鉄
それらをこねまわし、金床(かなとこ、刀を打ち据える金属の机の上)を作り出した
「これを使ってさ…、ね、おじさん」
ありがとう、ありがとう、ありがとう
ヘパイストスは感謝の心でいっぱいだった
「これが終わったら、元の姿で会いたいものよの、アラハバキよ、共に鍛冶をしよう」
「うん、おじさん、約束だよ」
少年は曇りのない目(まなこ)をヘパイストスに向けた、もう、ヘパイストスの心に憂い(うれい)はなかった
「さあ!! 見ているが良い!! このヘパイストス、渾身の武器を、鍛錬(つく)ってやろうぞ!!」
ヘパイストスは、その瞳の中に、炉の中に燃ゆる火よりも熱き炎をやどし、そして、それにも負けじと熱く燃ゆるアマテラスの火で、アラハバキに貰った金属を、叩いた