25.曲がりせんべい、曲がりすぎてもはや畝り(うねり)せんべいと化す。

ワシントンと同時刻、太陽が二回天をまたぐ街

いつものようにタバコを吹かし、何かないか、星が見えやしないかと空を眺める1人の男

光が見えた、流れ星か、じんこうえーせーとかいう奴の破片か、だが違かった

「お、オイオイ、コッチに飛んできてんじゃねーかよぉ!!」

谷屋家哉(たにやいえかな)日の本の国(ひのもとのくに)に捨てられた街、通称『捨街』に生きるもの

昔は、夢の島とか言われていたらしいこの5番街、この掃き溜めで、生きる意味を見つけるために生きる男

バシュッ、光は谷屋の5m横に墜落した

呆気にとられ、立ち尽くす谷屋、右手に持ったタバコはすでに灰となっていたが、それを気にしている場合ではなかった

「あ、あ…」

(流れ星が墜落した時って、どんな反応すりゃ…)

コンクリートを焼き、周囲を包んでいた煙と得体の知らぬ光が、その中央へ集約していく

そこには一人の少女がいた、衣服は何も身につけていなかった

ペタペタと、裸足で歩み寄ってくるこの、存在に、谷屋は心底ビビった

(こんなん、チンピラとかヤクザとか、そんなんじゃねーだろ、どうすりゃいいんだよ、バケモンかよ)

屋上の手すりに寄りかかったまま縮こまり、身動きの取れない谷屋に、その、天から降ってきた少女は話しかけた

「わ、わたしの名前は、あまてらすといいます、よろしくお願いします!」

「あまてらす…アマテラス!? 神社のあの、あれか、神様(かみさん)かい?!」

「そうです、わたしは、でっかいももの中で力をとられてしまって…」

少女は目の端に涙を潤せながら、言葉に詰まって泣かぬまいと腰あたりにピンと張った両手を握りながら、涙をこらえていた

「ま、まあ、よく分かんねーけど、ガキが泣くもんじゃねーよ、それより服だよ! ほら、これでも着てな、風邪引いちまうぜ、買ったばっかでちと硬いけどよ…」

レザーのジャケットが少女の両肩にかかる

「しかし、ヒイヅルか…、お天道様みてーな名前だと思って仕事しててよ、毎日毎日お天道様を見てたからなのか、わかんねーけどよ、アマテラスさんがくるとはよう」

谷屋は少女から溢れ出る光、灯火のような、とても暖かく、お日様(おひさん)のような心が休まるような光を見た

(こんなクソみてーな街でもよ、たまには、いい事もあるもんだな)

「お兄ちゃん…お兄ちゃんのそば、いてもいい?」

もはや泣いている少女がぎゅう、と、谷屋の太ももにしがみついてくる

「しかし…これが神様(かみさん)なのかい、こんなガキンチョが…」

「ああ、いいぜ…いくらでも一緒にいてやるよ、こんなところで立ち話でもアレだからよ、あと、乗るなら俺の肩の上にしな、お天道様は高いところが似合うからよ…」

アマテラスを肩車しながら、屋上の非常ドアを開け、ソファのある5F事務所に案内をする

「おぉい、奈津、オメー小せぇ頃の服とか持ってねーかぁ」

階段から下を覗いて、谷屋が怒鳴り声をあげた

ここ『パーラーヒイヅル』はパチンコ屋である

大声を出さないと銀玉の弾ける音にかき消されてしまうのだ

階段の下であくせくと働く奈津と呼ばれる二十歳くらいの女、谷屋とはほんの少し年が離れているだけだが、幼子が病魔で亡くなりやすい、このスラムでは、年の近い友人というものができただけ、奇跡に近いものといえよう

谷屋の大声を聞いた途端、ガンガンと鉄の階段を大急ぎで登ってきて、そして、大声で怒鳴った

「谷屋ァァ! あんた変態にでもなったのかァァ!!」

(しまった、ブチギレてやがる)

「ちげーって、ちげー、いいから事務所に来い! 訳は…分かんねーけどそこで分かる!」

グイ、と奈津の手を引っ張り、事務所に連れ込む

「あんた…裸の、女の子?? さらってきたわけじゃ、ないよね?」

「コイツにゃあ服が必要なの!! 貧乏性のオメーだから小せぇ頃の服とか持ってんだろ!」

ワイワイ、ガヤガヤ、ギャーギャー、目の前で大人二人が喧嘩をしている

雑音のような喧騒を破り、少女が掌をのばした

「この…ひかりにさわって下さい、このひかりは、きおくです」

「記憶? 触ればいいのか?」

少し前まで喧嘩していた二人は顔を合わせて、もう一度目の前の少女を見る

「これは…わたしのきおくです…」

その掌に浮かぶ光は、小さいけれど、まるで、谷屋が憧れ続けていた、太陽みたいだった