15.

昔からスポーツが好きだった、身体を動かすと、生きている感じがしたから、理由はシンプルだった

大学を卒業してから、フィットネスジムの経営を始めた

トレーナーとして栄養管理の知識はあったので、アドバイザーとしても活躍した

とにかく、サムは一生懸命ジムの仕事に精を出し、経営も軌道に乗ろうかといったところだった

だが、人生の繁栄も盛ろうかという間際、妻の不妊病が判明してからは、自分の非力を嘆き、それならば、世の中に、女を護れるような男を増やそうと、スポーツジムの経営に切り替えた

 

1週間くらい、少年は、ジムの隅っこに座って、ミットを叩く男、サンドバッグを蹴る男、縄跳びを何時間も繰り返す男、バーベルを苦しそうにあげる男、色々な、強くなろうとしている人間を見ていた

サムと話しているのを横聞きした限りでは、コックさんだとか、ネコを飼ってる人だとか、お酒をお客さんに出す人だとか、色んな人がいることがわかった

何も変わったことはない、みんな、自分の弱さが我慢できなくなった男だった

汗だくになって縄跳びを終えた男が、サムに話しかけた

「あそこに座ってるガキはなんなんです? ジーッとこっちを見ているようだけど、サインでも欲しいのかい?」

「ああ、あの子か、あの子はうちの兄貴の息子でさ、バカンスに行ってる間あずかってるわけだよ」

「そいつは失礼したな、サム、あんたはおせっかい焼きだから、てっきり近所のコジキでも捕まえてきて、世話してんのかと思ったぜ」

「バカ言っちゃいけねえよ、フツー、そんな話、俺の眼の前でするかなあ」

サムは、つるりと剃った頭をポリポリと掻き(かき)ながらごまかした

 

ある日、ジムの窓際のサッシから木漏れ日が差し込んだころ、少年は意気込んだ様子で、サムに話しかけた

「サムおじさん、ぼく、その、ぼくも、強くなれるかな」

「おお、ボウズ、お前さんも興味が出てきたか! その言葉を待ってたよ」

サムは、少年のブロンドの髪をわしわしと掴むと言った

「ああ、お前さんを世界で一番強い男にしてやるよ!」

「あ、ありがとう…ありがとう、オジサン」

「ところで俺の名前は…ま、ここからか、自己紹介がまだだったなあ、サミュエル・サウサー、サムだ、よろしくな」

「ぼくは……わかんない」

「分からない? 名前がか?」

「ぼくはお母さんもお父さんもいないんだ」

「それじゃあ俺が、名前を付けてもいいかな?」

少年は頷いた(うなずいた)

 

「うーん、それじゃあな、俺の尊敬するボクシングの師匠がいるんだ、エドガー・マックってんだが、おっと話が長くなるな、それじゃあ、今日からお前の名前は、エドガー・サウサーだ」

少年はそれの言葉の意味することを知らなかった

「エドガー・サウサーじゃあ長いから、エディって呼ぶよ」

「エディ…ぼくの名前は…エディ」

「そうだ、今日からお前さんの人生が始まるんだ、記念に写真を撮っておこう」

 

この華奢なブロンドの頭の少年は、フレームの中で義理の親に抱かれながら、苦々しく、初めて笑った