14.

さまよう幽鬼から逃れようと街路樹の影に隠れる少年

世界が嗄れた(しわがれた)冷たい手で、か細い命の灯火を包みこもうとする

まるで明日なんか見えていないかのように、泥まみれのボロ布をまとって夜が過ぎるのを待つ

 

オリンピック開催宣言からちょうど1年前

ゴミと汚れにまみれた少年は、建物の前で力尽きた

少年の頭上にはパープルと朱色のネオンの看板『ワシントン・ジム』目が霞んで、よく見えなかった、ただ、灯りが欲しかった

コンクリートの階段に蹲った(うずくまった)少年の意識は、夜の闇に吸い込まれた

ジムの経営者であり、トレーナーであるサムは、軒先に転がる哀れなドブネズミのような少年を、両腕で抱え込んだ

冷たい………サムの心は、ピアノ線で締め上げられたようにひどく痛んだ

 

「どうした、ボウズ、意識はあるか?」

少し汗ばんだ匂いのするタオルで、ガサガサと髪を拭かれていた少年は、目を覚ました

「オジサンは、ぼくのことを叩かないの?」

「何を言ってるんだ、ほら、温かい紅茶があるよ」

ジムの休憩室に設けられたソファから、スポーツ中継のTVが見えた

ボクシング試合の実況中継のようだった

「お前さんはウチの玄関に倒れてたんだ、ひどく汚れていたから、身体を洗ってやったよ、ほら、毛布もあるよ」

少年は軽く投げられた毛布を受け取ると、頭を縦に振って、毛布の中に顔を埋めた(うずめた)

「大変な目に遭ったんだろう…近頃の街の連中はみんな、金のことしか頭にないバカ野郎どもだ、しばらくここで休んでいきな、ウチはもう閉めちまうからさ」

そういうと、サムは、休憩室の扉をバタッと閉めた

ドアの向こう側からは、ガラガラとシャッターの降りる音が聞こえてきた

少年は、生まれて初めて、人の温もりを知った

 

ちょうど9歳の誕生日、冬の出来事だった