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うるせえハンサム

 キリウ君が集合住宅に住んでいたところ、しょっちゅう階下でステレオを爆音で鳴らすバカがいた。ある日のこと、キリウ君は暇だから文句を言いに行った。

 バカの部屋の玄関扉を蹴りながらキリウ君が叫ぶ。

「おいこら毎日毎日楽しそうだな! ケツに消火器ぶち込んでブシューってするぞバカ!」

 すると中から出てきたバカは、とんでもない男前だった。おまけにスタイル抜群だった。

「ごめんねヘッドホンするからごめんね!」

「キャー超ハンサム! いいです、為替でぼろ儲けしたし……暇つぶしだし……。もしかしてモデルさんですか?」

「職安の受付」

 顔が良いのは七難隠すと言うし、そいつの顔とスタイルに免じて、キリウ君は騒音公害を簡単に許した。

 しかし男前は、その崇高で高等な遺伝的勝者のフェイスに影を落として下を向いた。その様もまた、すこぶる絵になった。

「それに俺はハンサムなんかじゃない」

「またまたご謙遜を」

「全サムだ! 勘違いするなよクソガキが! 半サムじゃねえ全サム! 全サムーーーーッ!!」

 そうして突然、口角から泡を吹いて暴れ出した男前が、ヘッドホンのコードを振り回して襲いかかってきたので、キリウ君は慌てて逃げた。職安の受付って大変な仕事だと思った。