第二章
そこには
仄かな月明かりに見守られた町を
一人走る直弼がいた
「いったいどのくらい走ったんだろうか…」
思い返せば土間を出た後の記憶がない
まるで夢遊病者のように 無我夢中に走ってきた
「ここがどこだかわからない…」
直弼はそう呟くと 途方にくれた
よくよく辺りを見渡すと どうやら山の中にまで踏み込んでしまっていたようだった
再び夢遊病者のような足取りで
付近に茶屋はないかと 歩をすすめだした
茶屋の主人は道に詳しい と思ったからである
二歩三歩進み、項垂れた面をあげてみると 灯りが見えた
「お茶でも飲んで一息つかせてもらおう」
ノレンをくぐると、この世のものとは思えないほど醜悪な面をした店主が出迎えてくれた
「いらっしゃい こんなところでいったい何をなさってたんで?」
「さ、野犬にでも襲われたら大変だ、中に上がんなされ」
この世のものとは思えないほど醜悪な面をした店主は、臭い息を吐きながら話しかけてきた
「お前の面を見るとヘドが出る」
直弼はそう店主にいい放つと、店内の一番置くにある椅子に 勢いよく腰掛け 両足を机の上に叩きつけた
「どうした、俺は客だぞ
はやく茶をもってこい」
「申し訳ございませんが…そのような無礼なお方を
この茶屋から生きて返すことはできないのです」
店主は額に太い血管を浮かび上がらせながら 刀を抜いた
「こりゃカステラが食えなくなるかもしれん…」
そう直弼は呟き、懐から南蛮銃をとりだした。