昼頃、空の高いところを、めちゃくちゃでかいモノグロが飛んでいった。計測によれば、全長は75~80メートルとのこと。
今度はゼロの向こう側から突然現れたらしく、ちょっとした祭りになった。モノグロは電波が届かないところで生まれた生き物である、という説を熱烈に唱えていたショウが、興奮して鼻血を噴いていた。
ただ、彼、モノグロを探して頻繁に向こう側に立ち入っているせいか、だんだん造形や言動が怪しくなってきているのが気がかり。
――D662年 某月 某日
「そうそう、この家からは出らんないからね。勝手に出ようもんなら、マイクロ波のシャッターできみの眼球と脳みそは爆発するからね」
とか言ってたっけ。改めてキリウ少年にそう念押ししたミシマリが、よくわからない機材を背負って、お手伝いの人形をたくさん引き連れて、朝敵を討ち滅ぼさんばかりの勢いで出て行ったのが昼前のこと。
三時間後の今、キリウはリンゴをうさぎの形に切っていた。聴きたいラジオ番組もやってなかったからだ。皿の上に並んだそれを、二人のお手伝い人形(以下、メイデン)が凝視している。キリウのお目付け役の、また今朝初めて見た顔ぶれの人形だったが、いったいこの子らは何人いるのだろう。メイデンたちは、その身に赤い血が流れていないことを隠そうともしない青白い肌をしていた。随所に走るパーツの継ぎ目も、むしろ作り物であることを誇示するかのように堂々と晒されていた。
この懐かしい香りがするリンゴは、ミシマリの知人らしき女性が箱で持ってきたものだ。何の前触れもなくやって来たその人は、みっちゃんは居るかと尋ねて、居ないと分かるとメイデンたちに箱を渡して去って行った。そんなんでも、知らない人の姿を見てキリウは少しだけ安心した。このド辺境の街には、ちゃんと他にも生きてる人が居たことを思い出して。
ブチ切れてるような気もしていたけれど、握ったナイフを振り回す気は起きなかった。誰彼構わずポストに投函することもだ。メイデンたちが小動物のような目で見上げてくるせいで、怒りが湧いてこなかった。キリウはすごくアンバランスな気持ちで、ただぼんやりと、ミシマリの言葉の意味を考えていた。
今朝、いつの間にかベッドに倒れ込んできていたメイデンたちに埋もれて目を覚ましたキリウは、夢も思い出せないうちにミシマリから昨晩の非礼を詫びられた。とはいえ、彼女はキリウを無理やりオムライスにしようとしたことと、深夜のテンションでキリウを侮辱したことに対して誤っただけで、その――きっかけとなった何らかの出来事、についての考えを改めたわけではまったくないようだった。
だからいま、キリウはここでこうしているのだ。
昨晩から変わらずミシマリの言うことは意味不明で、やはりキリウには彼女が怒っているのかそうでないのかすらもよく解らなかった。ただひとつ伝わってきたのは、ミシマリが猛烈にキリウを疑っているのだということ。その何らかの出来事を引き起こしたのがキリウなのではないかという不信、ぐりぐり、それだけだった。
でも、何が何を何でなんだろう。ミシマリが一向にキリウの解る言葉で説明してくれず、訊かれたことに答える以外では気軽に質問ができる雰囲気でもなかったので、キリウはそれを自分で考えなければならなかった。
今朝のミシマリは猜疑心にか目をギラギラ輝かせて、キリウにたくさん質問をしてきた。全ての内容を覚えてはいないけれど、答えたくないようなものばかりだった気がした。そして彼女はしきりに、コランダミーの『持ち主』がどうこうと気にしているようだった。
彼女が言うところによると、キリウはコランダミーの『持ち主』ではないらしい。当たり前だ。キリウはコランダミーの所有者になった覚えなど無いし、何よりコランダミーをひとりの女の子として尊敬しているのに、モノのように言われると嫌だった。けれど、キリウがそう口答えすると、ミシマリは心底傷ついた風な顔になってこう言ったのだ。
「ろまんちすと~~~~! あのねぇ~、きみの美しい気持ちはとっても、と~~っても嬉しいよ~。製造者明利に尽きるよお~。尽きるけどさ~~。大前提として、コランダミーはそういう人工物なんだよう!! きみは持ち主でもないのだから、些細な言葉尻に噛み付いて話を逸らすのはやめてほしいよ!」
それを聴いた時、キリウはようやく理解した。この人の目には、キリウとは違う世界が見えているのだと。
――また思考が飛んだ。ふわふわの布団で寝不足なのか、頭に変なことをされたせいか、うまくリンゴに刃が入らず、分厚くなったうさぎの耳がキリウの指の下で折れた。ごまかすように形を整えたそれを皿の上に置き、キリウは続きを思い出そうとする。
そうだ。ミシマリが言うところのコランダミーの『持ち主』は……キリウじゃなくて……。
すると間もなくして、外が急に騒がしくなってきた。すぐさま、ダチョウがぶつかるように開いた扉から、けたたましいミシマリの囀りが飛び込んできた。
「ねえねえねえ!! 再現したかもしれないよぉ~~、完全じゃないけど!」
補足しておくとこの倉庫は、正面の大きな扉を取り払って、そこに玄関口を増築したような形状になっている。ミシマリは内開きの扉に肩からぶつかって、上半身だけ突っ込んで鳴いているのだ。
彼女は出て行った時とは打って変わって、朝敵を討ち滅ぼしたような笑顔を浮かべていた。小間使いをたくさん連れているくせに、彼女は扉をおのれの足で蹴り開けて、メイデンたちを伴ってどたばたと家の中に入ってきた。興奮の醒めやらない様子の彼女は、おそろしいほど爛々とした目をして荒い息を上げていた。
しかし彼女は、テーブルに広げた古紙の上でリンゴを切っているキリウの姿に気づくと、みるみるうちに半狂乱になって叫んだ。
「なにしてるのおおお!?!? りんごちゃんを切っちゃダメでしょぉぉ!!!?」
「でも、これ」
「あぁ~~、ううん。残酷だよ~。この家にはさ、教育中の人形(※)もいるからやめてね。それに、せっかくダミーキャラの補充のために譲ってもらった、心の真っ白なりんごちゃんなんだから」
※ミシマリが『人形』と呼ぶ時は、コランダミーと同じような普通の人形を指してる時だ。メイデンたちは『人形』とは呼ばれない。実際のところ、メイデンたちは主人が呼ぶ必要も無いほどに気の利いた立ち回りをするから、呼ばれもしない。
すっぱくておいしかった、という感想をキリウは寸前で飲み込んだ。食ったなんて言ったら吊るされかねない。ミシマリは昨日と違うブーツでつかつかとキリウの元に歩いてくると、座ったままのキリウの手から、果物ナイフを親が子供にそうするように取り上げた。先程までうさちゃんリンゴを見つめていた二人のメイデンも急に動き出し、テーブルの上のリンゴやら皿やらを無情に片付け始めていた。
昨日のことを謝りこそしたけど、ミシマリは申し訳なさそうな顔など一切せず、ずけずけとした態度もまるで変わらなかった。たぶん、これが彼女の素なのだろう。おそらく駅で会った時からずっと、彼女は素のままでいるに違いない。
「えっ、嬉しくない? 怪現象が再現したかもだよ? きみのお兄さんが――」
「おとうと」
キリウが呟いたのを見て、ミシマリは肩をすくめた。
「あああん、ごめんね。何度もごめんね。なんかね、IDの上ではきみの方が一つ後だからさ、イメージ的にさぁ~。一卵性の双子ちゃんのIDが隣り合ってるってゆうの、知識としては一応知ってたけど、人間で実際に見たのは初めてなんだよねぇ~。ここ人間いないしね。ていうかそもそも、双子のきょうだいで上下があるってのがよくわかんないし――」
それはそうかもしんないけど。
ID。ミシマリがその単語を口にするたびに、キリウは背筋がぞわぞわして、すごく変な感じがした。なんだか自分まで、人形たちのように誰かに作られたものみたいな気がしてくるのだ。しかしその嫌悪感は、今に始まったことでもないような気がしていた。
じゃあ、いつから? ……。
キリウはミシマリを直視せず、彼女が連れ帰ってきたメイデンたちの様子を観察していた。その子たちは何度も家の外と中を往復して、よくわからない機械とか、血まみれの生肉が入った袋とか、壊れた人形の一部のようなものとかを、せっせと中に運び込んでいた。
一方で、キリウが何も質問しないのに、ミシマリは勝手に喋り始めていた。
「再現実験をしてきたんだよ! きみの兄ィ……弟ちゃんが、コランダミーを『持ち主』に設定したまま死んじゃった時のね。あたしはダミーキャラを『持ち主』に設定した人形をいっぱい用意して、きみの話を参考に、いろんな条件でダミーキャラに死んでみてもらったんだ――」
メイデンのひとりが、自分と同じくらいの身の丈がある人形を頑張って運んでいた。人形の方には意識が無いようだ。作り物の召使いならもっと力持ちにすればいいのに、とキリウは思ったが、ミシマリがあの幼気さを大切にしていることは嫌というほど伝わってきていたので、それ以上は考えなかった。
やがて並べた椅子の上に寝かされた人形は、目を閉じたままぴくりとも動かず、メイデンたちと見まごうほどに血の気が無かった。彼女はもともとそうであるかのように、ただただ魂の無い人形でいた。――いや、何だろう。ふつうの人形は動くものではないのだが。
「もちろん、完全に同じ条件なんて用意できないよ。だから、しょうじき完全にダメ元で、部分的に似せた条件でちょこっと試してみるだけのつもりだったんだけどさ。そしたらたまたま、速攻でそれっぽいのが出てきてくれたんだよねぇ~! よかったかもだよぉ~~、きみが何にも覚えてないもんだから、本ッ当にいつの話かも分からない出来事を、アカシックレコードを走査して調べなきゃいけないかと思ってたもん。コランダミーもあんまり長いあいだ同じ人を『持ち主』に設定し続けてたせいで変になっちゃってて、データがちょっと怪しかったんだもん。まだ本当にこれが原因だと確定したワケじゃないけどさ、もし本当にこれだったら、もしかすると、もしかするとだよ。久々の『この世界の方の』バグという線かもしんない。たぶんそうだ、あたしが作った人形にバグが残ってるわけないもん! うわぁ、皆に教えてあげなくっちゃ――」
疲れもあるけれど、心の中で虫が這い回る音がうるさくて、ミシマリの言葉はぜんぜんキリウの頭に入ってこなかった。もとより、知らない人の話を大人しく聞いているのは伝言ゲームの次に苦手なのだ。
ミシマリはそんなキリウの態度を咎めることなく、気づくこともなく、傍らのメイデンから差し出されたティーカップを立ったままあおった。それから、ゴスいジャケットのどこかからか引っぱり出した小さなメモ帳を神妙にめくって、勝手にどんどん続けた。
「えっとねー。まあ、そこの椅子に寝てるコを見てちょうだいよ。どうもしてないんだ。どうもなってないのが問題なんだ。そのコは、死んだダミーキャラが『持ち主』のままになってるんだよ。ダミーキャラは実験用の抜け殻みたいな生き物だから、そんなのを『持ち主』に設定したら、人形も抜け殻みたいになっちゃうんだよね。でもその状態が、『持ち主』が死んだ今も解けてないのがおかしいんだよ! で、そうなっちゃう条件っていうのが――」
するとその時、意識の無かった人形が目を覚まし、むくりと起き上がった。ミシマリはそれを見るなり、眉をハの字にして笑って言った。
「あ~、解けちゃった。そうなんだよね、完全に再現できてないっていうのは、ここんとこなんだ~。あたしが見つけた方法だと、しばらくしたら解けちゃうみたいなんだよねぇ。このコの他にも、同じようになったコはいっぱいいたけど、今残ってたのはこのコだけだったんだ。でも、こうなることがあるって分かっただけでも大きいんだよ~! もっといろんなパターンを試してみれば、コランダミーみたいに解けないパターンも見つかるかもしれないし――」
椅子の上でまだ虚ろな目をしている人形に、さっきとは別のメイデンが飲み物を運んできた。小さなグラスの中身は鮮やかなピンク色の液体だった。メイデンが動かない人形の口元にそれを持ってゆき、頼りない手つきで傾けて、半開きの薄い唇の間に流し込んでゆく。あんまり丁寧でない仕事に見えたが、液体はこぼれることなく、全て人形の中に注がれていった。
それからほんの数秒して、人形がぱちくりとまばたきした。同時に彼女の顔にはすっと血の気が差し、それが真っ白な手足の先まで回ってゆく様は、椅子ふたつ離れたところから眺めているキリウにもよく見えた。微かな桃色を帯びた彼女の肌は、コランダミーのひんやりした頬と同じはずなのに、先程までのぞっとするような白さとの対比で、今はとても生々しくキリウには思えた。
「で、それが起きちゃう条件っていうのがさ~、まさにきみが教えてくれた通りだったんだよ! ちょっとずつパターンを変えて何回か試してみたけど、おそらく大事なのは高さと『空中で何にもぶつかってない』ってとこなんだよね。場所は関係無いっぽくて、電波塔の天辺じゃなくても、高さが同じなら大丈夫だった。速度も関係無いっぽくて、地面にぶつかった時の速度が同じでも、高さが違ったり途中で何かにぶつかってたりするとダメだった。ダミーキャラの重さや形状も、今のところ関係無いっぽいよ。だからざっくり言うと、さっきの二つってことになるみたいなんだよね――」
透明。抜け殻とは違う、底なしの無色透明。キリウの視線に気づいて、椅子の上の人形がゆっくりと顔を上げる。彼女はガラス玉の瞳でキリウを見つめ返すと、何にも分かってない感じで、にっこり笑った。
誰のものでもない人形の、誰のものでもない笑顔はとても愛おしかった。けれどミシマリの言葉を借りれば、それは営業スマイルなのだそうだ。誰のものでもない人形は新しい『持ち主』を探して、目の前の人間に最も寄り添う顔を作る。相手が求めているものをそのための機能で感じ取り、これまでの記憶や学習内容を材料に、ウケの良い身の上話を作り上げて取り入ろうとする。だから勘違いするなよと、ミシマリはキリウに釘を刺したのだろうけど。
それならコランダミーの空っぽな笑顔は、少なからず本当の『持ち主』に向けられたものだったのだろうか。
だったら嬉しい、とキリウは思った。
「――ってわけでさ、きみはもうしばらくここにいて、コランダミーの身に起きたことの調査に協力してほしいよ! まだまだいっぱい調べたいことがあるよ。それに、ごめんだけどあたしはまだ、きみがコランダミーに何かヘンなことをしたって線も捨てれないんだよね。とりあえず、いつ頃を掘ればいいのか見当がつくまでは――」
ミシマリが何やら勝手なことを延々としゃべり倒しているけど、キリウは生返事すらしなかった。
それにしても、なぜキリウはミシマリに大人しく従っているのだろう。確かに人形たちはかわいいけれど、それとこれとは別問題のはずだ。キリウはマイクロ波がどうこうでビビるようなチキンではないし、コランダミーを『あっち』に送り届けるという目的だってとうに達成している。
なのに今すぐキリウがこの街に火を放って逃げてしまわないのは、ひとえにコランダミーが居るからだ。それと一応、キリウとは全く違う形だけれど、ミシマリが確かにコランダミーを愛しているからだ。ミシマリは人形をモノだと言い切ったが、それは彼女がうっとうしいロマンチストではないから、ごまかすような物言いを嫌っているだけで。製造者としてのプライドと同等以上に、ミシマリはコランダミーへの深い愛情を持ってこの問題に向き合っているよう、キリウの目には映っていた。
もっとも本音を言えばキリウは、あんまりにも嫌になったら、ミシマリをまたブン殴ってでも逃げればいいとも思っていた。ミシマリがすっぽ抜けたように非力な女なのは、そのことと大いに関係があった。この頃のキリウはそういった勘定を抜きに他人と接することは無く、目に見えないものを盲目的に信じることも無かった。不意打ちを二度食らうつもりだって無いし、さっきの果物ナイフも、握り返さず奪われるままにしてあげただけなのだ。しかし彼女がキリウにこれだけ不遜な態度をとってくる以上、彼女も似たようなことを考えているであろうことは容易に想像できたので、くれぐれも気をつけなければならないのは変わらなかったが。
コランダミーは今ここにいない。キリウは今朝からコランダミーの姿を見ていなかった。ミシマリはバックアップをとってるとかどうとか言ってたが、いま主張していたように彼女がキリウを疑っているのなら、意図的にキリウをコランダミーに近づさせないようにしてるのかもしれない……。
「そういや、きみのモノグロちゃんは?」
「あの。人形って、何が見えてるんですか」
ミシマリが何か言うのが聴こえなかったわけではないが、キリウはハンドルが効かず、思ったままに口を開いていた。ミシマリは急に質問されてびっくりしたようだが、人形のことを尋ねられて嬉しかったのか、もーのすごく生き生きとした顔になって、思いっきり喋り始めた。
「え!? ああ、そりゃぁ、持ち主と同じ景色だよ!! 共感の基本さね~! 人形は『持ち主』に合わせて自分を設定するようになっててさ。ほら、同じ花を見て、同じように美しいと思えるコって素敵でしょ。光の下でも、同じ孤独を感じてくれるコって儚いでしょ! でも作るの大変だったんだよお、懐かしいなぁ~! 完全に同じモノが見えるほど精度を引き上げられたはよかったけどさ、そしたら今度は、人形のほうが『持ち主』に引きずられちゃったりしてさぁ~! だから人形はちょっと鈍感に作ってあるんだよねぇ~。それだからさ~! あたしね、ほんとにね、きみが自分のものじゃない人形とず~っと旅してたっていうのが謎すぎたんだよ~! 使用上の注意とか、『持ち主』にしか喋らないこともいっぱいあるはずだしさ。それ以上に、ほかのひとに合わせて設定された人形と一緒に居て、ほんとに平気だったのかな~って! ちぐはぐだなぁとか、なんか見えてる景色が違うなぁとか無かった? 合ってないヒーリングマグネットで、頭痛とか眩暈とか具合悪くならなかった? 動的幻想、ていうかコランダミーの見た目とかおかしくなかった!? 本当はね、よくコランダミーを放り出さないで連れてきてくれたと思ってるよ~!! あぁ~、でも、きょうだいなんかだと案外大丈夫なのかな!? 感受性とか好みが近ければ――ん。あれっ、ねむくなっちゃった?」
下を向いてしまったキリウに気づいてか、ミシマリが言葉を止めた。キリウはしばらく目を閉じたままでいたあと、立ちっぱなしの彼女を見上げることなく、首を横に振った。
「いえ」
「そお?? 今、人形ちゃんたちのお昼寝タイムだけど、混ざっていっちゃダメだよ~! 眠いならお部屋で寝てね――」
ガチャンと硬い音がした。メイデンの一人が運んでいたモノを落っことしたのだ。わたわたとそれを片付け始めたメイデンを見て、ミシマリは嬉しそうに駆け寄ってゆき、その子の仕事を手伝い始めた。
誰も見ていないところでうつむいたまま、キリウはまた目を閉じていた。そして知らず知らずのうちに、ちょっとだけ笑っていた。なんでか。