『電波を通さないモノってあるだろ?』
『電子レンジだぜ』
『電子レンジの中ではラジオも聴けない』
『はい』
『でもな、オレは思うわけ。一番電波を通さないのは人間の心だ。起き抜けの恋人の目の前で三秒で全裸になってギャーギャー暴れながら自作のラブソングを歌ってみろ、なんも伝わりゃしねえ』
『うーん……チョコチップの入ってないクッキーに、食べる価値がないように?』
『それでは本日のメッセージコーナーです。ラジオネーム公僕さん……』
今日はメッセージが読まれなかったな、とキリウ少年は思った。思っただけで、特に残念がっているわけではなく、番組が終了した携帯ラジオのスイッチを何の感慨もなく切った。永田町の闇に興味がある人々は多く、あの電波ジャックラジオには、毎回溢れるほどのメッセージが寄せられる。読み上げられた奴が幸運なだけだ。
ラジオネーム『バッタ野郎』ことキリウは、夜の空気のせいで、ふと古い友人のことを考えた。共謀して兵器の横流しを行って、いくらか儲けた仲の友人だ。
ある日そいつは不良在庫の反物質粒子砲を引っ張り出してくると、そいつで近所の耕作放棄地にミステリーサークルを掘り始めた。何のためかと言われたら、格差社会を是正するためだ! 涎を垂らしながらそう豪語する姿は、もはやキリウの知っている彼ではなかった。
嫌な思い出だ。関節を鳴らしながら夜の白昼夢に埋没していたら、気がつくと、キリウはひっくり返ってしまっていた。腕とか足が危ない方向へ曲がっていた。これは副交感神経がどうこうなったのが原因なので、彼は手元のラジオの電池を食べて、無理矢理テンションを上げた。
そのまま興奮しすぎて、部屋中がペンキまみれ(いつか借金の取り立てに使用したものの余りと、意味もなく買い足したもの)になるまで暴れ続けていたら、階下の住人から波動砲による攻撃を受けた。
安い集合住宅に住んでいるせいで、こういうことになるのだ。貧乏は敵なのだ。だからキリウは、お中元のレーザー衛星詰め合わせで応戦することにした。そうしてエネルギー会社を三社倒産させて戦争を終結させたのち、平和条約を結んだ彼らは、手持ちの音楽・映像ソフト、書籍やゲームソフトを貸し出し合って、互いの趣味の微妙な違いにぎくしゃくした。
すると気まずい雰囲気を切り裂くように大家がすっ飛んできて、請求書でキリウの頬を引っぱたいて、ついでに布団叩きでキリウの頭をブッ叩きまくって、キーキーわめいた。嫌になったキリウは、その口に銀色のリンゴをブチ込んで逃げ出した。
今日はもう何も考えたくなかった。