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キリウ君の幼虫

 ペットショップの水そうのふちについてたキリウ君の幼虫をもらった。図鑑で見たことないけど、キリウ君は親指のツメくらいの大きさの、青いイモムシだった。ぼくはアゲハチョウを飼ったことがあるので、キリウ君も育てたかった。

 店員さんにキリウ君は何を食べるのか聞いたら、ネコジャラシの葉っぱだと言われた。ぼくはジャムのビンに水を入れて、根を洗ったネコジャラシをさして、葉っぱにキリウ君を乗せて、紙をしいた虫かごに入れた。音楽性のちがいで共食いしてしまうので、何匹も飼うのはよくないって言われたけど、ぼくは一匹だけだからよかった。

 一週間したら、キリウ君は脱皮して薬指の先くらいの大きさになった。かごを開けて指でつついたらうねうねしてた。頭をさわるといやがった。ぼくは、学校で友達と絶交したことをキリウ君にしゃべった。ぼくが悪いからみんなに言えないけど、キリウ君はだまって聞いてくれた。

 ぼくはエサを替えてるときに、その日にあったことをキリウ君に教えてあげるようになった。葉っぱを食べてるキリウ君に、ぼくは、いっぱい食べてきれいなチョウになるんだよと話しかけた。

 キリウ君はどんどん大きくなって、小指くらいの大きさになった。ある日、ぼくは苦手なプチトマトを虫かごに入れてみた。イネ科じゃないから、キリウ君は食べれないと思ってたけど、夜に見たら食べていた。それからぼくは、時々、塾のお弁当のプチトマトをキリウ君にあげるようにした。

 プチトマトあげてたら、キリウ君の体についてる目のもようがだんだん赤くなってきた。イモムシは頭を大きく見せて天敵から身を守るために、目のもようがついてるのだ。青と赤のイモムシはめずらしくてきれいなので、ぼくはうれしかった。チョウになったときに、赤い色が残ってたらいいなと思ったけど、残らないだろうなと思った。

 二か月半くらい経ったのに、キリウ君はサナギにならなかった。キリウ君は消しゴムくらいの大きさだった。ぼくは、かごの中でじっとしてるキリウ君に、ゆっくりでいいよって言った。

 次の日、ぼくがエサを替えていると、目をはなしたスキにキリウ君がいなくなった。古いエサについたまま新聞紙の上に置いていたからだ。でも探したら、カーペットのすみっこにいたのでよかった。キリウ君を手に乗せると足が動く感じがした。

 次の次の日、朝起きたら、キリウ君がネコジャラシのビンの水でおぼれ死んでいた。ビンの口がいっぱいになるくらいネコジャラシを入れてたのに、なぜ落ちたんだろうと思った。キリウ君は、ネコジャラシのすき間に頭から入って、ビンの中でたて向きになっていた。

 ぼくは通学路にキリウ君を埋めた。悲しくて昼休みに図書室で泣いた。

 帰りにペットショップに行って、店員さんに聞いたら、ネコジャラシは水を入れたビンにさすんじゃなくて、水でぬらした紙で下の方を包むのだと言われた。小さい幼虫が落ちておぼれるからだ。ぼくはアゲハチョウもそうしてたけど、本当はだめな方法だった。それと、キリウ君は一生イモムシのままで、チョウにはならないと言われた。

 ぼくはキリウ君はチョウになると思ってたから、おどろいた。キリウ君がチョウになると思って、キリウ君にチョウの話をたくさんしてしまった。ぼくの話を聞いて、キリウ君は困ったかもしれないと思った。

 急にぼくは、キリウ君はチョウになれないのをぼくに言えなくて、自分で水におぼれたような気がしてきた。合ってるか分からないけど、塾に行くバスの中で考えてたら、また悲しくなって泣いた。図書室で泣いてた時より悲しかった。イモムシのままでいいから、ぼくはキリウ君が死なないでほしかった。