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2016大晦日

 ぴんぽーん。夜の呼び鈴。

「クロネコでーす」

 もちろんキリウ君1は、扉を開けると同時に書籍『13歳のハローワーク』を振り下ろした。しかしその角っちょは、キリウ君2が咄嗟にかざした『14歳からの哲学』に阻まれた。

「よく判ったな。来たのが俺だと」

 キリウ君2である配送業者のコスプレをした少年が、玄関先で不敵に笑う。彼はキリウ君2にも関わらず、挨拶のために取った帽子の下の髪は、空色と――血のような赤とのツートンカラーだった。そして側頭部のあたりが、どういうわけか空間と混ざり合ってグニャグニャと蠢いていた。

「ご、ごめんなさい。どちらさまですか?」

 しかしキリウ君1は、それが自分自身だと気づかずに、まるで関係のない人を殺そうとしてどうしようみたいな顔をしていた。あまつさえ、ポッケからシャチハタを出した。

「俺だよ、キリウ君だよ」

「俺かよ。なにそれ、色が違ったらわかんないじゃん」

 言い切りやがったな、キリウ君の識別子が色だけだと……。キリウ君2は、キリウ君1の意識の低さに呆れた。

「まったく。今年はずっとおまえが引きこもってたから、俺が不完全なまま年末が来てしまったんじゃないか。だから、残りは今日、おまえから奪うつもりなんだ」

「俺、そういうものなの?」

「おまえもそうだったんじゃないのか?」

 キリウ君1には、キリウ君2が言っていることの意味が分からなかった。彼は去年の暮れ、確かに2015年のキリウ君を爆殺したが、髪に赤のメッシュを入れる趣味は無かったからだ。

 それに何より、キリウ君1は最初からキリウ君だった。不完全だった頃など無いのだ。無いはずなのだ! キリウ君1には、一昨年の大晦日に2014年のキリウ君をビルの屋上から突き落として殺した記憶もあった。あの時も軽トラで乗り付けて……。

 あれ、いつ免許を取ったんだっけ?

「だから俺もおまえと同じことをするのさ!」

 固まったキリウ君1の手からシャチハタを叩き落として、キリウ君2が真っ赤な瞳をギラつかせた。彼が振り上げた右腕もまた真っ赤で、その指先に莫大な熱量が収束していき――。

「ちょっと待てストップストップ!!」

 突然、キリウ君1が狂気的な形相で口走った。びっくりしたキリウ君2は、破壊光線のチャージをキャンセルしてしまい、尋ねた。

「な、なに?」

「敷金!」

 俺に成り代わろうと言うくせになんて抜けたやつ……。キリウ君1は、キリウ君2の意識の低さに呆れた。

 こども二人が我先にと駆け出し、集合住宅の階段から街へと飛び出してゆく。

 屋根から屋根へと音速で飛び移り、眠る千羽のスズメを散らす。電波的な嵐が夜空を歪ませ、新月の影を拡散させる。今日はいい日だ。冷たくて星が綺麗で、凍るような日だ。背中に光の翼が無いことに、淋しさを覚えるくらいに。

 やがて、雑草が茂りまくった人気のない河川敷で、対峙した二人のキリウ君が互いに叫んだ。その手に破壊光線をチャージしながら。

「貴様を真っ赤に染めてやるよ、2016年の俺!!」

「来いよ。スクラップにしてやるよ、2017年の俺!!」

 ……思えばこの時、無意識に彼を『2017年の俺』と呼んだ時点で、とっくにキリウ君1の心は敗けていたのかもしれない……。