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2015大晦日

 人気のないド田舎の闇の底、耕作放棄地のド真ん中で焚火をしている少年がひとり。かぼちゃをくり抜かせたら村一番のキリウ君だ。通りすがりの誰かが彼に何を燃やしているのかと問うと、

「財布」

 だとのたまう。

 ゆらめくオレンジ色の炎の底に沈む安っぽい財布は、もちろん彼のものである。『財布にこだわるのはダサイ』と豪語したうえで彼が選び抜いた、いかにも頓着してない風のそこまで安くない財布だ。

 山ほど詰まったレシートの端からことごとく黒く焦げ、冬の冷たい風が吹くたび何かしらが散ってゆく。それは同じものが三枚もある靴屋のポイントカードだったり、潰れたファストフード店のクーポン券だったり、先月キツネに騙された時の葉っぱだったり……。

「いまどき財布なんか燃やしたら、自分が自分じゃあなくなるかも」

 通りすがりが冗談めかすも、キリウ君はじっと光を見つめて(虫だから)相変わらず膝を抱えていた。ついにそいつに一瞥もくれず言った。

「そんなのに証明できる俺じゃない」

 戸籍の無い彼の言葉には説得力があった。戸籍、一時期は金で手に入れたが、ウェブ宅配買取サービスで古本に挟んで売る遊びをしたために、また無くなった。買取結果の一覧には載っていなかったので値段がつかなかったか、もしくはお店の人が気付かなかったか。それだけでシルバーウィークじゅうドキドキできたなら、安いものさ。

 そう。シェークスピアの一節を引用するのと『キン肉マン』のセリフを引用するのと、やってることは同じなワケだ。

「俺のも一緒にいい?」

 どれだけ暇なのか――まだそこにいた通りすがりが、唐突に申し出てきた。一緒にとは財布のことだろうか。キリウ君は不思議がった。財布を処分したうえで身元を証明しようとするとテンションが上がる性癖を持った奴が、自分の他にもいるのかと。

 誰もが口先だけで引き止める前に、そいつの財布が焚火に投げ込まれた。おそらくはキリウ君と同じく、未回収のクリーニング屋の伝票すら入ったままの財布を、なんの躊躇もなしに。

 少しびっくりしてキリウ君が振り返ると、そこに立っていたのは自分だった。直感的に彼がそう思っただけで、実際は同じ顔に同じ神経をしているだけの何かなのかもしれないが。

 ここからは便宜上、最初に財布を燃やしてた方をキリウ君1、後から通りかかった方をキリウ君2とする。

「俺が言うところの俺とゆーやつはこんなもので消えるんだな」

 これはキリウ君2だ。彼はまったく適当なことをつぶやいて、ある種のトランスを起こしていたが、炎の輝きをうつす瞳は誰にも平等に神秘的だった。一方キリウ君1はその言葉をまるきり無視して、傍に置いていためんつゆの入ったバケツを掴む。

 キリウ君1は知っていた。もう一人の自分が何をしに来たのかを。一昨日の星占いで見たからだ――カステラ座、薄毛に注意。

 だから一呼吸後には、バケツの中身をそいつにぶちまけ

 る、瞬間、キリウ君2が自分とキリウ君1の位置を入れ替えて、ついでにめんつゆをガソリンと入れ替えて、ダッシュで逃げた。

 発火!

 炎上!

 爆発!

 さよなら2015年の俺。飛び乗った軽トラで暴走族を轢き殺しながらフジ山を目指しつつ、キリウ君はにじむ涙を拭った。