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キリウ君の好きな人

 キリウ君が窓際で神様への願い事に興じていた。

「神様、お願いします、俺が好きな人以外みんなバッタに変えてください。好きな人というのは愛してる人という意味で、その人以外俺を含めてみんなバッタに変えてください」

 すると神様はキリウ君に背中を向けたまま、代わりに天使が答えた。

「神様はみんなの神様ですので、ある一人を特別扱いというのはできません」

 ではどうすればいいのですか、とキリウ君が諦めきれない様子で尋ねると、天使はこう提案した。

「すこし裏技くさいですが、あなたが想うその人を限りなく絞り込める条件を指定してくだされば、その人だけとは限りませんが、救えるかもしれません」

「どうしても、その人以外みんなバッタにしたいんです。氏名、居住地域、それに生年月日をミリ秒単位まで指定することはできますか?」

「生年月日は無理です。生まれを区別しないために、神様にも生年月日などの参照に関して制約があります。信仰を反映するために、行動のログならばある程度遡れますが」

「じゃあ……」

 そのようなことをそのような調子でお茶を飲みながら相談していたが、三時間くらい経った頃、唐突に天使が浮足立ってきた。

「では芋煮会の支度がありますので、そろそろ私はこれで」

「俺の願いはどうなるのですか?」

「神様はみんなの神様ですので、ある一人を特別扱いというのはできません」

 神様は相変わらずキリウ君に背中を向けたままだった。

 いたずらっぽく笑う天使の小悪魔フェイスでキリウ君は、自分はこいつにとって遊びだったのだと悟った。だから神様も天使もダクトテープで巻き殺すと彼は悪魔になって、彼が好きな人以外みんなバッタに変えた。

 地上を跳ね回る無数のバッタを衛星軌道上から眺めながらキリウ君は、好きな人の姿がどこにもないことを気にしていた。

 もしかするとキリウ君の好きな人なんて、キリウ君が愛せた人なんて、最初から……。