暗黒譚
嵩張る屍の頂上から身を擡げる一人の男
脂肪と血がこびり付き毛皮のようになつた長髪
三つの首を貫いたままの刀を振り翳す
世界中を襲った天変地異 災害 公害 飢饉により全ての生命が息絶えたこの地球上で
我が物顔で歩き回る人類 唯それだけが生き残った
故なき食欲といふ衝動に 身を攀じらせ 唯 唯 生くるものを探し疾る
人だ 人だ 人だ 人だ 人だ 人だ 人だ
喰 い 物 だ
凡ゆる者が飢え 凡ゆる者が殺され 凡ゆる者が殺した
光は無くなつた 暗闇の中に光るものは 食料を 我元へ 我物へ そういふ思考に支配された 人間であつた
唐松の下で赤子が鳴き叫ぶ 我母は何処ぞや
枯れ柳の下で母が鳴き叫ぶ 我が子は何処ぞや
この世は 一体何ぞする物とや
一旦蜉蝣 男の名前だ 母に付けられた名前
イツタンカゲロウ イツタンカゲロウ
我が子は何処ぞや 我が子は何処ぞや
産まれた途端に腕を噛み千切られる
産声を上げる暇も無く 喰われ 散る
其れがこの世の定めよぞ 天におわすは神様ぞ
人を喰い生きろといふ 天啓が 人々に舞い降りる
イツタンカゲロウ
男は屍の山の上で 鎮座する
此処は 我が家ぞ 生くるか 死ぬか それだけぞ
イツタンカゲロウは 屍の山を 杭で囲い 表札代わりに生首が三つ付いた刀を突き刺す
此処は 我が家ぞ
油車を強く踏み込む
ゴウンゴウンゴウン 鉄の獣が唸りを上げる
そこら中に打ち棄てられた 鉄の獣
叫び声を上げ 死ぬ迄走るこの獣の存在
轢けば弾けるよふに 人は死ぬ
此処はぱらでいそぞ ああきりんと様よ
我は生きている
嗚呼 嗚呼 天にましますきりんと様よ