唸るアンプのハウリング! 一神教アレルギーを自称するキリウ少年が、ロックで完全防備した布教屋から無料配布のパンクロック聖書を押しつけられてキレていると、チャリに乗ったみなしごの配達員が近くを通りかかった。
かん高い音をさせてチャリのブレーキをきかせると、配達員はよそよそしくキリウに声をかけた。
「あなた、よく屋根の上を走ってる人ですね」
心当たりのあり余るキリウだったが、彼は布教屋がマシンガンのように構えてるギターを奪い取るのに忙しかったために、生返事をした。加減としてはミディアムレアくらいの。
「ついでにボクのうちのアンテナの向きを直してもらえませんか?」
たとえ殺されてもギターを手放すものか、といった狂信的な態度をとり続ける布教屋が怖くなり、キリウは彼の魂に触れるのをやめた。そしてギター越しに彼の体に蹴りを入れてから、ようやく配達屋の顔をまともに見た。
配達屋のみなしごは、メッセンジャーバッグから赤い羽根を一掴み取り出してキリウの頭にどさっと乗せると、「かつおぶし」とつぶやいてニヤニヤ笑った。
「何のアンテナなの?」
「よくわからないけど、大切なものです」
大切なもの? キリウは空っぽのアホ面で、ギラつく目をぱちくりさせた。そして、布教屋の頬をパンクロック聖書で何度もひっぱたきながら、ポッと顔を赤らめてて言った。
「それって愛……?」
みなしごは何かに目覚めたような顔をして、再びチャリのペダルを踏み込んだ。
それはともかく、恍惚とした表情を浮かべる布教屋が気持ち悪くなり、キリウはもう一度そいつに蹴りを入れた。そして路傍で唸るアンプのハウリング! うーるせー!