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76.そうして彼は死にきれなかった

 何かに抱きつかれた気がして目を覚ました。

 離れろバカ、とばかりに蹴飛ばした。

 蹴飛ばしてぶっ飛ばしてから気付いた。

 足が無い。手も無い。

 頭が動かない。頭も無かった。

 これで俺も脳みそパープリンというわけか。

 

 ?

 

 真っ暗で何も見えなかった。上も下も右も左もなく、真っ暗だった。何か光源になるものを探すと、近くに何かがごとりと音を立てて落ちた。十中八九、その正体は手回し発電機だろう。もしくはオルゴール。むしろオルゴールだ。

 オルゴールがキンキロキロリンキロキンキロ。

 

 なんだよ。

 そうだ。

 

 電波塔から飛び降りて死んだはずだ。

 なのに今まだ意識が確かに残っているのはなぜだ。身体をどこへやったんだ。どうやら命に……意識だけが辛うじて繋ぎとめられているらしい。あれだけ高いところから落ちたのに?

 失敗したのかぼくは。漫才の才能が無いうえ、死ぬべき時に死ぬことすらできないのか。このボケ殺しが! あそこで死ねなかったら、いつ死ねというんだ。じゃあもっかい死ね、ってバカですか。怖いだろ。ぼくは高いところが喫煙者と同じくらい嫌いなんだよ。もう死ぬの怖いよ、死ぬのが怖くなくなったらさすがに終わりだと思って、それだけは消さないように頑張ってたんだよ。

 そう、そうやって、よくわからない意地張ってばっかりの人生だったです。何も知りたくなかったです。何も知らない自分に戻ることにも耐えられなかった、です。そのくせ何も言えなかった、何もしなかったです。ただでさえ悪魔って神様に捨てられて、愛を忘れて、バグったまんまずっと生きてきた。でもいつか頭おかしくなって死ぬんだって? 脚気にもなります。オレンジジュースが甘くなくなった日のこと覚えてないです。いっそ誰か、誰かにってずっと思ってた。ミーちゃんのやばい料理にあたって死ねたらきっと、一番幸せだった。

 料理……。

 ヘタクソっていわれた。

 そうだ。

 キリウがぼくのこと見てた。

 なんでだ。

 

 ああ。センチメンタリズムに負けてあんな場所をえらんだのはあまりに軽率だったようだな。カエルにでも飲まれて死ねばよかった。

 キリウは何も知らない、ぼくが教えなかったから。キリウは、聞かなきゃぼくが何も答えないのを知ってて、でも聞くのはダサいからって何も聞いてこない。そんなやつだ。

 何も知ってほしくない。幸せになってほしい。

 まったく今のぼくが言えることではないがほんとです。ごめんなさい。

 それにキリウは…………違う。

 ぼくとは、ぼくらとは違う。違うものに愛されていたから。神様に捨てられても、朝食が爆発しても、ツンドラの気候に適応できなくても、大丈夫だから。

 もしかしたらそれを知るために、それをキリウの中で見るために、ぼくは帰ってきたのかもしれない。そう思わせるくらいに、です。それを見られなかったら、ぼくは……。

 だからお願いします電波塔にのぼる変態には戻らないでください、もう危ないことしないでください。

 嫌なことばかり考える暗いところでは暗いことを考える昔からそう

 オルゴール鳴ってる ああ 暗くてヤダ何も見えねえ

 無い首がぞわぞわして

 このままずっと引っかかってるのかな。

 ほんと疲れたもう

 ああ

 

 ざわついてる

 

 ここはずっとざわついてるよ

 

 ぼやけた ぐちゃぐちゃしてきた

 きえそう

 だったらいい

 なんなら自分で

 やろうか

 聞けよ

  ぼくは

  悪魔に呪われた

   よ

でも無い 頭が

  痛くて ほんと なんか刺さっ

  てるみたいな

 さっきから

    も 手とか 足 痛

  くて からだ が

引き    裂かれ

 で たらめ

 

  ニャ

 

 ☆