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20.カレイドスコープの中の箱庭

 悲しいがそいつは神様じゃなかった。ただ、名乗ったもん勝ちのような風潮があったので、神様を名乗っていた。

 神様だから世界を作ったのか、世界を作ったから神様になったのか、今となっては分からない。ただ、そいつによって世界は作られた。そこで言う世界というのは、盆栽とか箱庭みたいなものだった。

 ある日、その小さな世界の破綻に気づいた神様は、これまでの切ったり折ったり糊で貼ったりといった手間暇を惜しみながらも、全てを作り直すことにした。死んでゆくシステムを放置しておいて、自分の箱庭がおかしくなってしまうところを見たくはなかったのだ。

 そしてもう一度、今度こそは間違いのない世界を作ろうと、綿密な計画を立て始めた。スケジュールの合間を縫って、金より時間のかかるその作業に偏執的な愛を注いだ。それが若い神様の、缶ぽっくり以外では唯一の趣味と言えるものだったからだ。

 そうして世界は幾度となく始まりを迎えたのだ。入念に細工されたゼロとイチの結晶が積み上げられた空間の、透明な海で生命たちはスタートし続けた。

 そうしてまた幾度となく終わるのだ。長い時間が経った頃、いつもどこからか何らかのほつれが生じてきた。そんなことで終わるのだった。趣味で作られた程度の小規模な空間では、そんなものだった。箱庭は神様の努力や誠意に応えることなく、必ず壊れた。

 やがて、歳を重ねた神様は箱庭の整備に飽きた。何度でも勝手に滅びる愚かな生き物たちが可愛くなくなったのだ。そして、どうにもこうにもうまくいかない自分自身にも愛想が尽きたので、現実を見た。

 そうだ音楽だ。音楽が人生だ……陰気なメロディーがそいつを呼んだ。その瞬間、書きかけの聖書の原稿を全部資源回収に出した。それで導かれるまま何もかもを中途半端に投げ出して、気の遠くなるほどのリテイクを数えたのちに、そいつは自身最初で最後のアルバム『イドピカ』を発表した。

 しかし音楽なんかやるから人間性が崩壊したッ! 言わんこっちゃないッ! この世に絶望した神様は、部屋にこもってホットケーキミックスの袋をブチ破ると、モウモウと白む世界の中、薬物を一気して練炭を焚き始めた! そして冥土の土産に、キーボード(音が出ない方)を手癖で叩いて一つの世界を作り上げたのだった!

 完璧とは程遠いその箱庭は、ゼロとイチを簡易に結びつけただけの白いがれきでどこまでも埋もれていた。愛想が尽きた。愛以外の全てが、大衆の前を引きずり回された死刑囚の内臓のようにぶちまけられた。白い地平に、神様の青春が詰まった全てのモジュールが、憂鬱とともに降り注いだ。破綻も何も、最初からあらゆる部分がダメだったので、ある意味神様はとても清々した。

 もはやそこには命の行方も世界の果てもないという。イデアを持たない箱庭のための電波塔が、今日も明日も愛以外の全てを見下ろしている。