白いがれきの世界を列車が飛んでゆく。街と街を網目状に結ぶ線路だけが走る地平を、電気信号のように突っ走る。脱線したら、人の手が一切加わっていないがれきは、おろし金のように冷たく誰かを傷つけるだろう。
そういうものを見送って、キリウ少年は慣れない街の駅員に切符を放った。そしてリンゴの箱だのを抱え直して、まっすぐ交番へ行くと、欲求不満そうに机で書き物をしているお巡りさんへ話しかけた。
「迷子っス。道教えて」
その公僕は、キリウの姿を見るとため息をついてこう言った。
「俺に近づくな。俺は善意のカタマリ。だからおまわりやってる」
意味が分からなかったので、キリウは自分を全否定されたような心持ちになった。しかしそんなことで傷ついていては、社会を生き抜いていくことなどできないのだと心の声が言ったので、ひととおりミンミン鳴いて急におとなしくなった。
すると、横から通りすがりの男児がランドセルを全力でキリウに投げつけてきた。強い殺意がこもっていた。
「スコピンスコピン」
砂嵐のような幻聴にまぎれて、チビッコの言葉はキリウにそういった音をして届いた。意味をなす音節が限りなく限られた世界でそれはズレていた。小さい子供とはこういうものだったかな、とイメージ上のキリウは思った。キリウ脂肪酸には自分がこれくらい小さかった頃の記憶がほとんど無かった。
けれどキリウは、嘘でもいいから誰かに道を教えてもらいたかった。今日のキリウには、人生の目的とは別に行かなければならない場所があるのだ。
チビッコにランドセルを蹴り返すと、ついでにキリウはそいつをリンゴの箱で殴った。そしてリンゴの箱をコンクリートの地面に置くと、今度はチビッコの襟首を掴んで頭と頭をゴッツンコした。いきさつはしらんがチビッコが泣くまでやめないつもりだった。
しかし次の瞬間、その男児の頭を横からゴルフボールがストライクした。奇声を上げてプルプル震え始めたチビッコの襟首を掴んだまま、キリウが驚いて振り向くと、そこには先程のお巡りさんがゴルフクラブをだらんと下ろして突っ立っていた。
「俺は善意のカタマリ」
お巡りさんは、また同じことを言った。
「なんでゴルフボールぶつけんですか」
キリウが尋ねても、お巡りさんはしばらく黙っていた。ゴルフクラブを地面に投げ捨てて、昼食のことを考える素振りをしながら、やはりまた同じ形に口を開いた。
「俺は善意のカタマリ」
「でもゴルフボールぶつけた……」
「うん……」
そう頷いて、お巡りさんはキリウに地図をくれた。人生の目的地は載ってないけど、当面必要な情報は乗っているやつだった。なにせ善意のカタマリだから。
いつしか幻聴は昆虫の形をして、キリウの周りを飛び回っていた。そこでだらんとしてるチビッコの手のひらより、少し小さいくらいの白い虫たちだ。紙飛行機を裏返して翅をつけたような三角形の身体をしており、二つの黒い複眼がオシロイバナの種のように心元ない。
この虫はキリウ少年以外の目に見えていなかった。