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13.昼間の流れ星

 数日前の話で恐縮だが、幻聴に悩まされ続けるキリウ少年の自宅に、差出人どころか宛名すら書かれていない荷物がシュートされた。上半身でよっこいしょと抱えるくらいの大きさをしたそれは、普通の段ボール箱で、中には銀色のリンゴがぎっしり詰まっていた。

 これはひょっとすると香典返しかもしれないな、とキリウは思った。結婚式に香典を叩きつけて帰ってくる作業にかけては、彼はそれなりの実績があったからだ。スコアランキングも上位に食い込んでいたし、一時は横の繋がりにたぶらかされて、ケーキ用線香メーカー関連株のインサイダー取引にも打ち込んでいた。

 だけどそれを続けていくことができなかったのは、彼に勇気がなかったからだ。

 永遠の少年ゆえ、働き口に困っているせいで怪しい仕事やうさんくさい仕事をするのだろうと他人には思われるかもしれないが、そうだったらそれは、キリウにとって都合の良い解釈である。本当のところ、彼は人格の問題でまともな仕事が続かないのだ。それに、怪しいことやうさんくさいことが好きで好きでしょうがない面があった。たとえそれが他人を不幸にしたとしても。

 そして、長いこと続けていた借金取り――人さらいや敷地にカマキリの卵投げ込みといった、人間の尊厳を踏みにじった取り立てで多くの恨みを買った――の他にも、縄張りを無視した脱法チャーハンの販売など何でもやっていたので、今でも自宅に爆弾とか死体が届くことがあった。

 しかしどうなったって、今回の箱の中身は銀色のリンゴであった。明らかに異質なそれは、全面がクロームメッキされたようにきらめいていたが、その正体はキリウの知るところではない。

 彼は、リンゴは理系の食い物だと誰かが言っていたことを思い出した。そして箱から一つを取り出すと、台所へ連れて行って包丁で一閃した。するとリンゴの切り口から血のように赤い液体が勢いよく噴き出してきて、キリウのうちの台所はいい匂いのするリンゴ汁まみれになった。

 しばらく呆けていたが、そのまま現実を忘れて、キリウは再びリンゴを切り揃え始めた。切断面からいちいち溢れ出すリンゴ汁で、手と台所をべとべとにしながら作業した。やがて、まな板の上に銀色の耳をしたウサギが列をなすと、全部窓から投げ捨てた。それを余さず野鳥が青い空へ奪い去って行った。

 銀色の耳は昼間の流れ星になった。玄関の箱の中で、残りのリンゴが笑った気がした。