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109.まりもアレルギー

「ほら」

 差し出されたキリウ少年の手の中にあるものを見て、コランダミーのガラス玉の瞳が輝いた。

「モフー!」

 駅のベンチでアップルケーキをモフモフ食べていた彼女は、満面の笑みでそれを受け取った。

 それは彼女の首飾りだった。しかし、留め具も鎖も真っ黒になるほど古びていたので、しゃっくりを起こしたキリウが新しいものに換えてやったのだ。

「モフー」

「これ、差し歯?」

「モフ!」

 キリウがペンダントトップを指差して尋ねると、コランダミーは屈託なく頷いた。そこにぶら下がっていたのは透明な石で、ヒトの永久歯を加工したような形をしていた。もっとも、キリウはそれ以外の動物の歯を無理やり抜いたり撫で回したりしたことがなかったから、偶然そう思っただけかもしれないが。

「コランダミー、歯磨きすると落ち着くタイプ?」

「……」

 返事に困った様子のコランダミーにキリウはさんぴん茶を渡した。そして、千羽鶴にできるだけ自然な流れで共食いをさせる方法を忘れた。

「モフ……わかんない」

「まりもアレルギーなんてあるんね。じゃあ、コランダミーの差し歯? 誰の差し金?」

「モフモフ……モフ」

 コランダミーはまたすぐにアップルケーキを口に運んでいたので、モフモフに戻ってしまい、キリウは首を横に振る以外の答えを聞くことができなかった。

 アップルケーキはキリウが隣街のフリーマーケットで売っていた余り物だったが、きっとこの世の全てを食い尽くすまで、彼女は止まらないのだろう。少年はきわめて適当に思い馳せた。真っ赤な瞳で少女をじっと見つめた。あるいは、彼女のガラス玉の瞳に映る世界を見ようとしていたのかもしれない。

 キリウはそれを見たくてたまらなかった。同時に、まるで興味が無かった。三回に一回は吐き気がした。残りの二回は青春に捧げた。と言えば聞こえは良いが、実際のところ棒に振った。結局、彼はカッパ以外の何にも興味が無いふりをしていたからだ。

 ふと気づくと彼は粉まみれになっていた。それから、神経のつなぎ目と裏側がものすごくカサカサになり、頭に乗せていた折り鶴を引っ掴んで歯で破りながら聞いた。

「コランダミー、それ、おいしい?」

「モフー」

 彼女はさんぴん茶を飲んで一息ついて答えた。

「おいしいよ!」

「嘘つけ」

 耳からネジをすっ飛ばしながら無表情にそう言ったキリウを見て、コランダミーはきょとんとした。しかし、抱えた鞄に顔を埋めてしまったキリウの頭をぽんぽん叩いて、またケーキをモフモフし始めた。誰も拾わなかったネジはどっかに行ってしまった。